| 8月25日(日) |
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ホームページの打ち合わせに、ホームページプロデューサー徳田氏に朝から電話。 “公衆電話” 番長三上氏だ。 徳田氏の電話を一旦切って携帯に出る。 「田舎帰ったお土産買ってきたからさ〜、これから近くまで行くから出てこれる?」 急いで着替えて近くの公園に待ち合わせ。 「これは田舎のお土産ね。天越センセ、今度海のほう行っちゃうっていってたからこれ選んだの」 |
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プラスチック製のグラスに入った小さな海の模型。 |
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キャー、なんて素敵なストラップなんだろ。 「でもね、新居、幼稚園の隣なの」 うー。 「引越しは?」 あーだこーだと語り明かし、気付けば四時間あっという間に過ぎ去った。 本当、いつもながらいい人だ。 慣れ親しんだこのエリアを、またも私は去っていく。 渡されたフォークリフトのストラップを見てふと思う。 |
| 8月26日(月) |
| 日テレ“ナイナイサイズ”にてナインティーンナイン岡村氏と共演という企画。 今日流れましたとの連絡が留守電に入る。 “強い女とデート企画” 内心とてもほっとする。 テレビの話どうなった?
幼稚園の隣に越すのがあまりに辛くなり、思わず解約は出来るのか?と、不動産屋に電話。 「敷金は戻りますけど、あとは大家さん次第ですね。こんな例は今までなかったし…」 木曜に具体的な金額を出すと言っていたけど、ざっと見積もって30万以上は損するのか…。 今ね、家の前で向かいの家族が、目の前で花火している。 だけど新居はこの何百倍も、うるさいんだろな…。 予行練習? うう…。 試しに他の不動産屋に物件聞いてみたら、これまた辛いことに、四件も紹介してくれた…。 |
| 8月27日(火) |
| トラックドライバーを離れる間際になっても、私って“トラッカー”じゃないんだなぁ…と、しみじみ思う。
「とうとう張ったんだ」 みんなが19歳唐沢君のトラックの前で話している。 「かっこいいですよね〜、私も張りたい〜」 23歳ミオちゃんが唸る。 え?なにその○○って。 「これを張るとダッシュボードが暖まらないんでエアコンよく冷えますよ。ただ白線は見えるけど黄色い道路の線は見えないけどね」 わ、わ、分からない…。 「このフィルム張るとさ、前方が全然見えないじゃん。すっごい邪魔なんだけど」 え? 「女性がトラック乗ってると注目されるでしょ?」 そういう話、こないだラジオでもやってたな。 「男の俺だってよくじろじろ見られてイヤだなーって思ってるんですから、女の人は大変でしょ?」 全然! 昔中学生男子に呼び止められて、 「ホーン鳴らされたりしません?」 はぁ…。 私はトラックは、何も飾りのついてない、シンプルなのが一番素敵って思うんだけど。 幼稚園アパートキャンセル30万の損の話。 「30万損するなら我慢して住みますよ」 そうだよね〜。 「すみません、契約このままでいきます」 ふぅ…。 |
| 8月28日(水) |
| いつになく、魔の水曜日が比較的楽に過ぎた。 内容は濃厚だったわりに、時間がかからなかった。 七時半には帰宅。 最後の魔の水曜日も無事に終わった。
じ、地獄? 「稲葉さんどうするの?もうずーっと前から辞める辞めるって言ってたじゃないですか」 ここ、楽だからな…。 「とりあえずどっか電話してみたら?」 みんなそんなに悲観してるんだ。 私はそんなに悪いとこだとは思わないけど…。 「稲葉さんも焦ってるんだ。俺も焦るな」 それにしても、この会社って、本当みんなに愛されてないのね…。 これは半年もしたら、現メンバーが総入れ替えになるかも…。 それでも何事もなく、ここの会社は淡々と流れてく。 つまり、そういう会社なんだよね。 |
| 8月29日(木) |
| 私の仕事のコースは二通りある。 ひとつは問屋周りのレギュラーコース。 これは月、火、木と走る。 もうひとつが病院周りで水、金。 今日は問屋周りのコースのラストラン。 一件目のKに7時に着く。 底知れぬ爽快感が私を襲う。
なんとか渡してトラックに引き上げる。
Tの方々はTVで偶然私を見て、(ドリームプロジェクトで)私が世を忍ぶ仮の姿が医療器具の配送員であることを知った人たち。 荷受の、巨体ながら物腰の柔らかい、品のいいおにいちゃんにあいさつ。
給油中、ハンドタオルにつけるお礼の手紙を書いていると、突然誰かがドアを叩く。 「何も出来ないけど…」
もうひとり。 ポツンとひとり、取り残される。 喪失感…。 な、なんでそんなに意固地なまでに拒否するの?
1時半から積み込みなので、昼ごはんを食べて会社へ。 「明日は楽なコースですもんね。大変なのも今日までですねぇ、いいなぁ〜」
仕事終了後、小崎くんからメールが入る。 “OJM同盟会長様 おつかれさまでした。 あら。 (ちなみにOJMっていうのは、「親自殺未遂 」の略なのだ。) 明日は10年続けたドライバー人生のラストラン。 有終の美を飾ります。 |
| 8月30日(金) |
| もしも私の人生すべてを、自伝として書いたとしたら、今日は何章の終わりなのだろう。
そして明日は何章の始まりなのだろう。 いろんなことがあった。 ドライバーという仕事は、何も出来ないちっぽけな私に、生きる自信と広い視野をくれた。 トラックで走っているとね。 番長三上氏はトラックドライバーの自分を“陸のパイロット”と呼ぶ。 私にとってトラックは、ただのトラックではなかった。 キャビンから見える景色は、乗用車のそれとは異なって見える。 “トラックドライター”ってね。 だから私がドライバー辞めようと、私は永遠、“トラックドライター”であると言い続ける。 私はこれからも、“トラックドライター”。
“コンサートツアードライバー” 体力やあらゆる面を考えて、それは明らかに無謀と思えた。 結果は目に見えていたのだけど、私は必死で飛び込んだ。 そして、一ヵ月で見事敗退…。 でもね。 下っ端だったけど、B'zのドームツアーにも同行した。打ち上げで生稲葉氏&松本氏に会うことも出来た。
ルート配送…単調が嫌いな私が、もっとも苦手な仕事。 「3時くらいにはあがれるから」 ルート配送の会社のドライバーってね。 仕事は楽だった。 残業残業の毎日。 そんな中でも週休二日の特権を利用し、出版社に売り込み活動。 転職を考える。 周囲のドライバーも、いつでも転職を希望している。聞くとみんな、ドライバージプシーを繰り返している。 ふいにふと考える。 そんな時、我が家にまっしゅがやってくる。 まっしゅの購入手段に選んだのは、ブリーターさんと家庭を結ぶ仲介業者。 だけどその、的確なブリーダーさんの情報を私は知らない。 ネットを通じて探してもらい、条件に一番合った犬を紹介してもらえる。 そして仲介業者さんの手で、甲府生まれ、九十九里経由のまっしゅが我が家にやってくる。 可愛くじゃれるまっしゅを腕に抱き、おじさんが去った後考える。 一体私はいつになったら、海の見える丘でヒゲの似合うマスターになれるのだろう? 店を出すなんて、まだまだ遠い将来の夢だけど、一体どれくらい稼げば独立出来るものなのだろう? “子犬仲介業で独立” 「あなたが住んでいるエリアにはすでに開業しているので…」 断わりのメールが届く。 とにかく資料よこせー! 数日後には本部に行って説明を聞いていた。 「引っ越ししてやるなんていうから、なんなんだそれはって思っていたけど、あなたに今日会ってよく分かった。思い切りのいいおもしろい子だね」 同じ東北出身で話が盛り上がる。 犬のこと、本当に好きなんだね。 このまま惰性でドライバーを続けていくより、独立してフリーでやっていくほうが、これからの私にとっていいのではないか…。 考えて、考えて…。 私は海の街に引っ越し、独立開業することに決めた。 なにも知らない街で、なにも知らない世界に飛び込む。
「ミオちゃん転職考えてないの?」 私の周りは…それぞれに自分の世界で必死に生きる熱い人たち。 「ミオちゃんは頭もいいししっかりしてるし、どこにいってもバリバリやれそうなのに…」 事務のおばさんが入ってきて会話が中断。 ミオちゃんにトラックを引渡し、私はTOPPOで倉庫へ向かう。 私のドライバー人生、最後のトラック。 |
ミオちゃんに渡されたプレゼントを開けてみる。 ゲ! 以前辞めたプーさんそっくりなドライバー有賀さんに、私があげたのとおんなじプーさんの筆立て。 有賀さんとオソロだよ〜。 中に手紙が入っていた。 |
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“天越さんへ コタロウ君とは、彼女が飼いたいと願うマメ柴の架空の名前…。 強烈なインパクト、か…。
遅れて入ってきたミオちゃんのふそうファイター。 「写真撮らないんですか?」 一通り検品積み込みを終えた頃、事務員さんの、一番怖いおねーさんが、花かごを持ってやってきた。 隣で見ていた小崎くんが申し訳なさそうに言う。 みなさんとお別れのあいさつをして、TOPPOに乗り込む。 涙もなにもない、ただ妙に清々しい終わり方。 この道もきっと、もう通らない。 ありがとう。 新しい旅立ちには、すべて今までのことがつながっているから。 今の私がいること。 だからそれらがみんな、これからの私の道を作る。 トラックドライバーとして、10年いられた自分がとても幸せです。 ありがとう。 トラックドライターそらしどは、トラックを降りても永遠です。 これからもまた、よろしくお願いします! |
| 8月31日(土) |
| 朝目が覚めて、それがいつもの土曜日じゃないことを噛みしめる。
私は今日から“運転手”じゃない。 おとうふのみそ汁を作って朝食を取る。 引っ越しの梱包作業に取り掛かる。 それにしても、私の家は、なんでこんなに物が多いの?! 10箱ほど作ってヘトヘトになり、一旦下に下りて休憩。 “おはようございます。もう検品なんてしなくていい開放感でいっぱいでしょう…” “検品どころか梱包作業でテンテコマイだ。アリメバックより重い箱が次々に出来るよ” とりあえず、医療器具名を使用した日常会話を軽くかわす。 王様のブランチなぞを見る。 「○○動物病院ですけど、まっしゅ君のフィラリアの薬取りに来て」 家に戻って梱包作業を続投すると、またまた携帯が鳴り出した。 “山田益三” 「お前今なにしてるの?」 山田とは三年以上の付き合いになるけど、出不精な彼は私の街には来たことがなかった。 その山田が直々に、私を迎えにくるとはね。 近くのインテリアショップの前で待ち合わせ、山田の助手席に乗る。 「黄色いランみたいな花なんだよ…」 突然言われて私も慌てる。 外のガーデンで山田がなにかを見つけてくる。 “華やかに目を引く黄金は、一日の収穫を現す夕日の色、黄金を象徴するとして注目を集めています。今話題の風水では人々の心を和ませる黄色い花または黄色いものを夕日の方角である西側に飾ると、金運財運が上昇すると言われています” 「へー、この花“宝”っていうんだ。益三よく知ってたね」 これまた幸福を呼ぶと言われるふくろうの模型のついた、幸福の木の鉢植えも購入。 凄い凄い。
人生、世代論、男とは女とは、文学とは、文化とは。 いつになくビールのピッチが早い山田。 「お前は自己中なんだよっ!」 執拗なまでに私に不快にカラむ。 「そんなこと言われたくないよ…」 トイレに立つ山田のふらつく足元に驚く。 6時間経過し、店を出る頃はすっかり暗くなっていた。現在午後7時。 家の前にクルマをつける。 「元気でな…」 ふいに山田が私を抱きしめる。 手すら触れたことのない、潔白な私たち。 熱い、父なる抱擁…。 山田のその、友情とも、恋愛とも、親子とも違う、なにものにも例えられない愛情を感じる。 お互いを讃えあう、ハグのような優しい行為…。 「俺はお前に会えて変わったよ。50年以上、平凡な日々をなんの疑問も思わず生きてきたのにな。とても感謝しているんだ」
玄関には幸福の木と宝の鉢が私を待っていた。 なんの涙なのだろう? |